家づくりにおける左官の技術
2025/03/28
家を建てるということは、多くの職人たちの手仕事によって生まれる、いわば“総合芸術”です。その中でも、昔から日本の住まいに欠かせないのが「左官(さかん)」の存在です。壁や床を塗るという仕事は、単なる仕上げではなく、住まいの印象や機能性を大きく左右する重要な工程。今回は、そんな左官の技術が活躍するシーンや、その魅力についてご紹介していきます。
1. 下地作りという「縁の下の力持ち」
左官の仕事というと、真っ先に思い浮かぶのは「壁を塗ること」かもしれませんが、実は目に見えない部分でも左官の技術は活躍しています。
例えば、外壁や内壁を仕上げる前の「下地処理」。コンクリートやブロック、木材など、素材によって適切な処理を施さなければ、表面がうまく定着せず、数年で剥がれたりヒビが入ったりしてしまうこともあります。左官職人は、その建材の状態を見極めながら、モルタルやセメント、土などを使って下地を整えていきます。
この下地作りこそ、まさに職人の腕の見せ所。完璧な下地があるからこそ、その上に塗る仕上げ材も美しく映えるのです。
2. 日本の風土に合った「塗り壁」
日本の気候は湿気が多く、夏は蒸し暑く、冬は乾燥するという特徴があります。そんな環境の中で昔から使われてきたのが「塗り壁」です。土や漆喰(しっくい)、珪藻土などの自然素材を使って仕上げるこの壁は、調湿性に優れ、結露やカビを防ぐ働きがあります。
◆ 聚楽壁の魅力とは
そして、塗り壁の中でも特に「和室」に多く使われてきたのが「聚楽壁(じゅらくかべ)」です。聚楽壁とは、京都の「聚楽第(じゅらくだい)」周辺で採れた土を用いたことが名前の由来とされており、やわらかな色合いと質感が特徴です。現在では天然素材だけでなく、仕上げ用の聚楽土が製品化され、全国で使われています。
聚楽壁の美しさは、落ち着いた土色と、左官職人が鏝(こて)で丁寧に塗り重ねることで生まれる、独特の「肌合い」にあります。平らすぎず、しかし粗すぎないこの絶妙な質感は、空間にやわらかさと高級感を与え、和室を静謐な空間へと仕上げてくれます。
また、聚楽壁には調湿性、断熱性、防火性といった機能もあり、単なる装飾にとどまらず、快適な住環境づくりにも貢献しています。さらに、照明の当たり方や時間帯によって表情を変えるため、住む人にとって飽きのこない空間を演出してくれるのも大きな魅力です。
3. 土間仕上げと床の左官仕事
玄関の土間やリビングの一部など、近年では「モルタル仕上げ」の床も人気を集めています。無機質でスタイリッシュな印象のあるモルタルは、現代建築との相性も良く、カフェ風の空間づくりにもぴったりです。
ただし、モルタルは乾燥によってひび割れが起こりやすいため、美しく仕上げるには高度な技術が必要です。均一に混ぜる、水分量を調整する、コテでならす、乾燥を見極める――そのすべての工程に繊細な判断力が求められます。
また、最近では「磨き仕上げ」や「洗い出し仕上げ」など、デザイン性の高い技法も増えてきました。これらは見た目の美しさだけでなく、滑りにくさや汚れにくさといった機能面でも優れており、住宅の床にも取り入れられるケースが増えています。
4. 外壁にも生きる伝統技術
左官の技術は、屋内だけでなく屋外でも重要な役割を果たします。特に「漆喰」や「土壁」は、古くから日本の町屋や蔵の外壁にも使われてきました。最近では、現代建築にも取り入れられ、和モダンな雰囲気を演出する外装として人気を集めています。
外壁に左官を施すメリットは、見た目の美しさだけではありません。たとえば漆喰は、強いアルカリ性によってカビや細菌の繁殖を抑える効果があり、防火性にも優れています。さらに、雨風に強い塗り方を選べば、長期間にわたって美しい外観を保つことができます。
職人の技術が問われるのは、こうした機能性を損なわずに、均一な厚みで丁寧に塗ること。そして、建物のデザインや素材と調和する仕上がりにするためには、美的センスも不可欠です。
5. 現代建築と融合する左官の可能性
「左官=古くさい」「昔の家だけの技術」と思われがちですが、今や左官は、モダン住宅やデザイン住宅にも欠かせない存在です。たとえば、アート作品のような壁をつくる「アート左官」、光を反射するような鏡面仕上げの「磨き壁」、さらには型枠を使って模様を施す「型押し左官」など、創造性に富んだ技法が次々と生まれています。
また、住宅だけでなく、ホテルや店舗、ギャラリーといった空間演出の場でも、左官職人の感性が求められています。現代建築家とのコラボレーションも増えており、今や左官は“伝統”と“革新”をつなぐ架け橋といっても過言ではありません。
おわりに
家づくりは、図面だけでは語り尽くせない“職人の技”によって完成します。その中でも、左官は「壁」や「床」という住まいの大部分を支える、重要な存在。手作業ならではの温もり、素材が持つ自然な風合い、そして住まう人の暮らしを快適にする機能性。
もしこれから家を建てる予定があるなら、ぜひ「左官」という職人技にも注目してみてください。完成した家の中で、ふと壁を見たときに感じる美しさや、どこか懐かしくて落ち着く空気感。それらは、左官職人の手仕事によって生まれているのです。
江口工業では左官工事を承っております。お気軽にご相談ください。
-
前の記事
聚楽壁の調湿効果について 2025.02.27
-
次の記事
記事がありません